コーラ白書
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アルコール系コーラは何処へ

翌日オークランドへと戻った我々は帰国までの数日間、動物園やランギトト島へのツアーなどを楽しんだ。楽しみながら、私にはずっと気にかかることがあった。

アルコール系コーラが見つからない。

隣国オーストラリアで人気の高い、ラムやウィスキーをコーラで割ったアルコール系RTD(Ready to drink)コーラをこの国で一度も目にしていないのだ。

実はニュージーランドはアルコール飲料に対する法令が非常に厳しい国である。アルコール類の販売にはライセンスが必要だし、栓の空いたアルコールを持ち歩いているだけで罰金となる禁酒エリアも多く存在する。コンビニでのアルコール販売も2009年に禁止されている。

レストラン以外でアルコール飲料を扱える店といえば、スーパーのような食料雑貨店と本業のリカーショップ。そこに行けば、何か手掛かりがあるかもしれない。

 


 

まずはじめに向かったのは、COUNT DOWNというスーパーマーケット。緑のリンゴがトレードマークの、ニュージーランド全土に展開するスーパーだ。

清涼飲料のコーナーで驚いたのが、ガラスボトル入り飲料の数の多さ。コカ・コーラやPhoenix はもちろん、様々な種類の炭酸飲料がボトルの4本パックで販売されている。興味深いのがボトル入り飲料の多くがジンジャービア―やレモンライム&ビターズといった英国風の「渋い」炭酸飲料である店。。水や一般的な炭酸飲料はPETボトル、大人向け炭酸飲料はガラス瓶という棲み分けができているようだ。

またこのスーパーではPBコーラも取り扱っていた。"COLA"というシンプルな名称の1.25リットルのコーラがND$0.97(約65円)。コカ・コーラの1.5リットルPETボトルがNZ$3.29であることを考えると、かなりお得だ。気になるのは味だが、重いしPBだし、ということで購入は見送ることにした。これからアルコール系コーラを捜しに行くので、ここでバックパックを重くするのは得策ではないよね。

と思っていたら、その近くで予想外の大物に遭遇してしまった。illicit Cola。直訳すると「不法コーラ」という穏やかでないネーミングや、やたら尖がったロゴ、有刺鉄線を取り入れたグラフィックなど、ただならぬオーラを放っている。そして値段はND$2.98・・あれ?コカ・コーラより安い・・・

原材料を見るかぎり不法どころか特徴のない普通のコーラだが、面白いのがそのコンセプト。ラベル曰く「Cheezyなアメリカ文化を追い出して、古き良きKiwiの態度で置き換えよう」とある。要するにこのコーラは、アンチアメリカを主張するちょっと右寄りコーラなのだ。

中東などの反米感情の高い国ではこの種のイデオロギー的コーラの例はあるが、ニュージーランドのような中立に近い国でこのようなコーラがあるのは驚きだ。ただ残念なことにスーパー側はその意図をよく理解していないようで、単なる廉価コーラとして扱われていようだった。

想定外の2リットルのコーラを抱え、次にアルコール飲料売り場へ向かった。そこで最も大きな場所を占有するのがワイン。ニュージーランドではワインの人気が高く、特に良質なワイナリーが集まるオークランドでは品質の良いワインがリーズナブルな価格で手に入る。ブドウの種類ごとに分けられた棚一杯にワインボトルの並ぶ様は壮観。つい前日にレストランで飲んだワインを買ってしまう。

またワインほどではないがビールも充実しており、ニュージーランド産やアメリカ産、日本のプレミアムモルツまで世界中のビールが入手できる。

しかし、目当てのアルコール系コーラは全く置いていなかった。

最後の砦へ

最後に向かったのはリカーショップ。コンビニで酒類の販売が禁止されているニュージーランでは、酒類を専門に扱うお店があるのだ。そこで駄目なら諦めるしかない。

Queen’s Streetから1本入ったFort Streetの周辺は、バックパッカー向けのホテルや安い食堂などが並ぶちょっと雰囲気の違う場所。その角にある「INTA LIQUIR SHOP」というリカーショップを見つけた。

ボトルや箱が積み上げられた店内には、ウィスキーやウォッカなどこれまであまり見ることのなかったアルコール類が並んでいる。今までのコンビニや個人商店とは明らかに雰囲気が異なる。アジア系の店員に目で挨拶し、店の一番奥にある冷蔵棚を覗きこむ。

薄暗い棚には、これまで目にすることのなかったRTDの缶飲料が並んでいる。そして残念なことに、そのほとんどがコーラであった。

ニュージーランドにおけるアルコール系コーラは、若者をターゲットにした缶チューハイのような存在のようだ。同じアルコール飲料ながら、ワインやビールに比べてさらに販売が厳しく制限されている。このアルコールドリンク間の格差は日本にない習慣だ。

こちらのアルコール系コーラのバーボンの組み合わせが多く、様々な酒種と組み合わせるオーストラリアと傾向が異なる。興味深いのは、同ブランドでアルコール度数の異なる複数のラインナップがある点だ。例えばWilliam Cody’s BURBON and COLAでは、アルコール度数5%、8%、10%の3種類がある。

私は強烈なデジャブ感に襲われた。10年前、ゴールドコーストのリカーショップでの思い出が生々しくよみがえる(→コーラ四季報 2002年1月号津々浦々参照)。その上、今私のバックパックには2リットルのコーラとワインの瓶がすでに入っているのだ。

きっと若いころなら、全種類を抱えて死ぬ気で帰ったことだろう。しかし私は年を重ね、ほんの少しだが思慮深くなった。注意深く棚から特徴的なコーラを8本ほど選ぶと、「今日はこの辺で勘弁してやる」と捨て台詞を残しリカーショップを後にした。

 


 

グローバル化が進めば市場は寡占化し、競争力の高いグローバル企業のみが生き残るという話をよく耳にする。しかしニュージーランドのコーラを見れば、それは必ずしも正しくないことに気づかされる。過去ペプシが欧米で導入に失敗したオーガニックコーラがこの地で開花し、FOXTONの古参飲料メーカーが今でも人々に愛されているのがその証拠だ。

オーガニック・コーラの成功は、ニュージーランドの人の食や自然に対する意識の高さに支えられたものだろう。市場の声に耳を傾け、独自のコーラ文化を育んだニュージーランドの事例は、世界の市場が解放されても普遍的な地域の「色」があることを物語る。

そんなことを考えつつも、でもリカーショップのコーラを全部買えばよかったかなぁと後悔する日々であった。